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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

「史上最悪の介護保険制度改悪」をはねかえそう
全日本民主医療機関連合会 事務局次長 林 泰 則

 昨年12月、厚労省の審議会(介護保険部会)が介護保険の次期見直しに向けた報告書をとりまとめました。当初は、ケアプランの有料化をはじめ「史上最悪の改悪」とも称された改悪メニューが盛り込まれていましたが、撤回を求める世論の広がりの中で、全面的な制度改悪を阻止することができました。しかし、利用料の引き上げなど一部の改悪案はそのまま継続審議とされ、政府は夏までに結論を出すとしています。すべての改悪案を撤回させるために、引き続き力を緩めることなく、反対の声を挙げていくことが求められています。

 

1、 次期見直しをめぐる審議の経過
 新型コロナウイルス感染症は、これまで政府が行ってきた介護保険改革が地域の介護基盤をいかに壊してきたかを改めて浮き彫りにしました。しかし、厚労省が昨年10月20日の介護保険部会に示した見直しの検討項目は制度の改善・建て直しを行うものではなく、以下のように、給付のさらなる削減・負担増を図る内容でした。
・被保険者範囲・受給権者範囲=被保険者の年齢(現在40歳以上)の引き下げ
・補足給付に関する給付の在り方=補足給付(施設等の居住費・食費の負担軽減制度)の資産要件に不動産を追加
・多床室の室料負担=特養で実施されている多床室の室料徴収を他の施設(老健施設、介護医療院)にも拡大
・ケアマネジメントに関する給付の在り方=ケアマネジメントへの自己負担導入(ケアプランの有料化)
・軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方=要介護1、2の生活援助等を総合事業に移行
・「一定以上所得」「現役並み所得」の判断基準=基準額の引き下げによる利用料2割負担、3割負担の対象者の拡大
・1号保険料負担の在り方=高所得高齢者の介護保険料引き上げ

 

2、 改悪の撤回を求める運動と介護保険部会「報告書」
 以上の見直し案に対して、老施協、介護支援専門員協会などの職能団体や認知症の人と家族の会などが反対の見解を次々と表明しました。私たち民医連も学習・宣伝、署名活動など介護ウェーブを各地で進めてきました。
 改悪反対の世論が広がる中、12月20日に介護保険部会がとりまとめた「報告書」では、「ケアプランの有料化」「要介護1、2の生活援助等の総合事業への移行」については、今回は実施見送りと答申されました。この間の運動を反映した大きな成果だと思います。しかし一方、「一定以上所得の判断基準」「多床室の室料負担」「1号保険料負担の在り方」については、「次期計画に向けて結論を得る」と明記され、次期(第9期)の初年度となる2024年度の実施をめざし、今夏までに方針を決定することが方向づけられました(表)。

 

3、 審議が継続される3つの見直し案の問題点
(1)「一定以上所得」が該当する利用料2割負担は、現在「所得上位20%」が対象です。厚労省は「75歳以上の医療費窓口負担の2割化」(昨年10月より実施)が「所得上位30%」を対象としていることを引き合いに出し、それを根拠に利用料2割負担の対象を拡大することを提案しています。
 昨年10月、全日本民医連が実施した影響調査では、利用料が2割に引き上げられた場合、施設入所者(回答514件)では13%の利用者が「施設を退所」もしくは「退所を検討」と回答し、在宅サービスの利用者(回答1097名)では、34%の利用者がサービスの利用を「減らす」「とりやめる」と答えています。2割負担の拡大によって経済事情による利用抑制がいっそう広がることは明らかです。
(2)「多床室の室料徴収」は、介護報酬の基本サービス費から室料相当分を減額し、その部分を利用者負担に転嫁するというものです。実施されれば施設入所の困難を確実に広げることになるでしょう。
(3)「1号保険料負担の在り方」では、高所得者の保険料を引き上げ(多段階化)、その分を低所得者の軽減措置に充てるとされています。しかし世代内での単なる負担の付け替えにすぎず、高騰し続け、支払いに困難を来している介護保険料の根本問題に対処するものではありません。一時凌ぎの方策ではなく、保険財政における国庫負担割合を大幅に引き上げ、高齢者の保険料負担を軽減することが必要です。

 

4、 改悪案の 「根こそぎ撤回」、制度の改善を
 残された改悪案は何としても撤回させなければなりません。
 利用料の見直しは政令「改正」で実施可能であり、法「改正」を経ず、パブリックコメントの集約など型通りの手続きで実施が決定されていく危険性があります。政府が結論を出すとしている夏までの取り組みが決定的に重要です。引き続き様々な機会を通して反対の声を挙げましょう。
 多床室の室料負担は介護報酬2024年度改定の中で検討されます。さらに、財務省が要求している福祉用具貸与のみの単品ケアプランの報酬引き下げ、人員配置基準の切り下げ、処遇改善加算の取り扱いなども改定の重要なテーマとなります。この春から改定に向けた審議が開始されます。基本報酬の底上げとともに、これらの改悪を許さないたたかいを進めていきましょう。
 様々な介護困難が広がる中、利用料を全員1割に戻すなど制度の大幅な改善が必要です。保険財政に対する国庫負担割合の大幅な引き上げをふくめ、重ねて政府に求めていきましょう。

 

○ケアマネジメントに関する給付の在り方
 ⇒第10期計画期間(2027~29年度)の開始までに結論を得る
○軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
 ⇒第10期計画期間の開始までに結論を得る
○被保険者範囲・受給者範囲 ⇒引き続き検討
○補足給付に関する給付の在り方 ⇒引き続き検討
○「現役並み所得」 (利用料3割負担)の判断基準⇒引き続き検討
○「一定以上所得」 (利用料2割負担)の判断基準
 ⇒次期(2024~26年度)計画に向けて結論を得る
○多床室の室料負担 ⇒次期計画に向けて結論を得る
○1号保険料負担の在り方 ⇒次期計画に向けて結論を得る