東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

患者、家族の持つ力を支えていこう

 私が訪問看護を始めて、様ざまな人との出会いがあり13年が経過しました。望んで入った訪問看護ではありましたが、悩みや戸惑いが多くありました。患者家族との関わりの中で失敗を繰り返しながらも、今では自分が思う理想ではなく、患者の生活者としての生き方や環境が違うことなど、自分の視点をかえることで柔軟に関われるようになったと思います。その中で心に残った事例を紹介します。
 87歳女性。統合失調症、認知症があり排便コントロール・服薬管理で介入していました。尿路感染症で発熱し入院。入院中に誤嚥による重症肺炎を併発し、命の危機的状況を繰り返していました。
 病状は安定しましたが、経口摂取は困難な状態で、胃瘻造設や中心静脈栄養は希望されませんでした。夫が疾病を抱えていたので療養型病床への転院が望ましいけれど、経済的に困難で夫が自宅に連れて帰りたいと強く希望されました。在宅看取り方向となり在宅療養が開始されました。誤嚥による肺炎のリスクが高いので在宅では皮下点滴を実施。
 夫は肺がんで認知症があり、最後まで看取ることができるのか不安がありました。介護が無理なのではないかとの意見もありましたが、行き場のない患者家族の思いを尊重し、夫が今まで行ってきた介護を継続し、できることは最大限行ってもらい、できないところは介護サービスと支援を明確にし、電話の窓口は一つに絞り、大事なことのみメモに残すことにしました。各サービス間の連携を密にして支え、一か月後の呼吸状態が悪化したその夜、夫は寝ないで見守り続け、翌日朝に夫との暖かいぬくもりのある自宅で、苦しまずに他界されました。
 この事例を経験して、介護者に認知症があっても、介護者の「暮らしの場だからこそ介護者の持つ力を信じる」ことが大事だと学ぶことができました。多くの困難があっても患者と家族の力に寄り添い、「何ができるか」可能性を信じて訪問看護の魅力を伝え、成長してゆきたいと思います。
(小豆沢病院訪問看護ステーション練馬事業所・2017年10月号掲載)