機関誌「みんいれんTOKYO」2026年3月号

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機関誌「みんいれんTOKYO」2026年3月号

原子力の「真のコスト」と持続可能な社会への展望

原発予算を医療・介護・福祉へ―
いのちを守るエネルギー政策への転換

龍谷大学教授 大島(おおしま)(けん)(いち

政府は「電気代が下がる」「脱炭素に必要」として原発再稼働を推進している。しかし、環境経済学の視点から原子力の「真のコスト」を検証すると、こうした主張は根拠に乏しい。

原発の「真のコスト」とは何か

原発のコストは、燃料費だけでは測れない。建設費、安全対策費、廃炉費用、使用済み燃料の処分費用、そして事故が起きた場合の賠償・除染費用――これらを含めた「真のコスト」を見る必要がある。福島第一原発事故の費用は、2025年のコスト検証ワーキンググループで26.2兆円(廃炉8兆円、賠償9.2兆円、除染・中間貯蔵6.2兆円、行政経費等2.8兆円)とされている。民間の試算では80兆円に達するとの指摘もある。この費用は電気料金や税金を通じて国民が負担している。国民にとって、原発は決して「安い電源」ではない。

柏崎刈羽原発再稼働の経済合理性

東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働で「年間1000億円の利益が出る」と説明してきた。しかし、この試算には問題がある。第一に、燃料費が高騰した時期の市場価格を前提にしており、利益見込みが過大である。第二に、追加安全対策費1兆1690億円以上を考慮していない。

この投資の回収率(IRR)は1%台かマイナスである。経済学的には投資に値しない。再稼働しても電気料金の低減効果は限定的である。むしろ、廃炉にして維持費をなくせば電気料金は下がる。東京電力にとって合理的な選択は、柏崎刈羽から撤退し、福島第一原発の廃炉に経営資源を集中することである。

安全性の問題――――事業者と規制の限界

経済合理性以上に深刻なのは、安全性の問題である。東京電力は福島第一原発事故を起こした当事者である。事故後も、柏崎刈羽原発でIDカード不正使用や侵入検知設備の故障放置といった不祥事を繰り返し、原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けた。2026年1月に再稼働したが、直後に制御棒のトラブルで停止している。

東京電力は、安全管理能力に根本的な問題がある。中部電力の浜岡原発では、基準地震動のデータが意図的に操作されていたことが発覚した。規制委員会の山中委員長は「意図的なデータ不正を科学的に見抜くことは困難」と認めている。事業者の自主的な安全管理に依存する現行システムには限界がある。

2024年の能登半島地震は、原発事故時の避難計画が機能しないことを示した。道路は寸断され、住民は孤立した。医療・介護施設の患者や高齢者の避難は現実的に不可能である。福島の事故では、避難の過程で多くの患者が亡くなった。原発を動かすことは、社会的に弱い立場にある人々にリスクを負わせることを意味する。

エネルギー政策と気候変動へのゆがみ

政府は「脱炭素」を理由に原発を推進している。しかし、原発への固執は、むしろエネルギー政策にゆがみをもたらしている。原発は優先的に送電線を利用する。そのため、原発が稼働すると再生可能エネルギーが出力抑制を受ける。原発維持に資源を投じることで、再エネへの投資が遅れる。

結果として、エネルギー転換にブレーキがかかり、気候変動対策が遅れる。気候変動は既に深刻な健康問題を引き起こしている。熱中症による死亡者の増加、感染症の拡大、豪雨災害による被災――医療・介護の現場はこれらの影響に直面していると思われる。気候変動を緩和するには、再生可能エネルギーへの迅速な転換が必要であり、原発はその障害である。

あるべきエネルギー政策

国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに電力の大部分を再生可能エネルギーで賄うことが技術的・経済的に可能としている。太陽光・風力の発電コストは過去10年で大幅に低下し、多くの地域で原発より安価になっている。公正な電力市場の発展や技術の進展によって、再エネの変動性は現実に克服されてきている。

日本は太陽光、風力、水力、地熱など豊富な再生可能エネルギー資源を持つ。原発優遇政策をやめて、省エネルギーと再生可能エネルギーに対する公正な促進政策を実施すれば、原発に依存しない持続可能なエネルギー社会は実現可能である。雇用創出、地域経済の活性化、エネルギー自給率の向上も期待できる。高市政権(自維政権)は原発新設に国の財政資金を投入しようとしている。

しかし、経済合理性のない原発に公的資金を注ぐことは、限られた資源の浪費でしかない。その資金を再生可能エネルギーや省エネルギー、さらには医療・介護・福祉に振り向けるべきである。原発の「真のコスト」――事故リスク、廃炉費用、使用済み燃料処分、そして「いのちと健康」への脅威――を直視すれば、原発依存からの脱却こそが合理的な選択である。再生可能エネルギーを基盤としたエネルギー社会への転換が、将来世代の健康と安全を守る道である。

大島堅一さんのプロフィール

大島堅一(おおしまけんいち)

1967年福井県生まれ。龍谷大学政策学部教授。経済学博士(一橋大学)。原子力市民委員会座長、日本環境会議代表理事。衆議院原子力問題調査特別委員会アドバイザリーボード会員。

著書に、『炭素排出ゼロ時代の地域分散型エネルギーシステム』(日本評論社、2021年)、『原発のコスト』(岩波書店、2011年、第12回大佛次郎論壇賞)、『再生可能エネルギーの政治経済学』(東洋経済新報社、2010年、環境経済・政策学会奨励賞)など。


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全日本民医連が参加する“原発をなくす全国連絡会”が取り組んでいる原発ゼロと再生可能エネルギーへの転換を求めるオンライン請願署名はこちらから


いま 伝えたいこと

つくろい東京ファンド 小林 美穂子

第7回 日常が奪われていく恐怖の中で

この原稿が紙面に掲載される頃、私は多少元気になっているだろうか。高市旋風が吹き荒れ、自民党に圧勝をもたらした衆院選から三日が経とうとしている。強い寒波の影響で豪雪地帯各地が雪に埋もれたこの冬、投票日の2月8日の寒さは特に厳しく、東京でもこの冬初めての雪が降り積もった。

投票に行こうと準備をしていると、認知症が進むIさんの介護ヘルパーから電話がかかってきた。「Iさんがお部屋にいないようです!」そういえば、毎日昼夜かまわず何度も電話をしてくるIさんから、今朝は電話がなかった。車イスでしか外出できなくなっていた彼が、まさか、こともあろうに雪が降る中、徒歩で外出してしまうとは!電話をかけるが、出ない。何度目かにようやく繋がった。

案の定、Iさんは出先から帰れなくなっていた。自分がいる場所を説明できない人の居場所を特定するのは大変難易度が高い作業なのだが、何度目かの電話のやり取りと、経験によって培われた推理力により、絞り込んでついに特定。すぐに警察に連絡をして保護をお願いし、無事に部屋に送り届けてもらうことができた。何度目になるだろう。地元警察の生活安全課には頭が上がらない。雪降る中、傘もささずに外で立ち尽くしていたIさんは、道の向こうに私の幻を見て「ここ、ここ!早く来て」と手を振り、警察官が到着してからも「待ち合わせしてるから」と保護を拒んでいたそうだが、説得した警察官はグッジョブである。

粉砕された心、音楽とゲームに逃げる

予期せぬハプニングが一件落着して投票に向かった。平和を尊び、社会保障の充実に真剣で、力のない人たちを助ける候補者に渾身の一票を投じた。しかし・・・開票結果は、想像を超えるおぞましいものとなった。唖然、呆然。一言でいうなら無残。木端みじんにされた心持ち。

生活困窮者支援や生活保護問題に理解を示し、私たちの声を国会に届けてくれていた候補者が次々に落選していく。私はテレビの前で黙りこんだ。じきに脳も耐えらなくなって、イヤホンで「Green Day」の音楽に没頭し始めた。全力の現実逃避だ。そうして思い返せば、やはり悪夢の始まりだった参院選で、排外主義に抗いながら聴いていたのはテイラー・スウィフトだった。普段は滅多に音楽を聴かない私だが、「もう無理」が限界に達すると逃げる先は音楽なんだなと、この歳になって気づく。

これまで長い時間をかけた闘いのほとんどが水泡に帰すのだ。扶養照会撤廃の運動も、生活保護基準引き下げ問題も、外国人支援も、これからは厳しさを増すどころの話ではない。どう闘えばいいのかも分からない。それどころか、憲法によって守られてきた私たちの人権や平和すら崖っぷちにあるのではないか・・・。いま、私はその不安と恐怖に打ち勝てず、音楽と単調なゲームに逃げ込んでいる。

現実の残酷さ―「自分を追い詰める者」を支持する困窮者

投票翌日、ある高齢女性と再会した。コロナ禍に生活保護申請を手伝い、その後も困りごとがあるたびに伴走支援をしている方だ。カフェで向かい合ってお茶を飲みながら、彼女は私に、「アンタ投票行った?アタシ?行ったよ、自民党に入れた」と得意顔で言った。

彼女の他にも同様の報告をしてきた生活保護当事者はいる。そうなのだ、私は知っている。私たちが支援する生活保護利用者の多くは、生活困窮者に厳しい政治家を支持してしまう。窮地にいた自分を助けてくれた地方議員が属する政党には入れない。いくらなんでも、あんまりだと思う。

「高市さんって、『さもしい顔をして貰えるものは貰おうとか、少しでも弱者のふりをして得をしよう、そんな国民ばかりになったら日本国は滅びてしまう』って言ったんですよ。」「〇〇さんの生活を圧迫しているタバコ、更に値上がりするみたいよ。その税金で武器買うんだって」と私が矢継ぎ早に言うと、「えええ⁈そうなの?でも、そんなことアタシ知らなかったもん」と初めてうろたえる。こういう素朴な投票者は一人ではないどころか、多数いる。なんならトランプ支持者もいる。

思想信条は自由である。とはいえ、今でも苦しい彼らの生活が、せめて少しでも良くなるような選択をしてほしいのだが、残念ながらそうはならない。

憎しみと分断の果てにこの国の行き着く先は・・・

この選挙結果の最もやりきれない点は、野党支持者のみならず、高市旋風に乗った人たちにも勝者はいなところだ。勝者がいるとしたら、それは独裁を許された気になっている高市氏と、大量の株を保有する一部の富裕層、自由自在に使えるATM的しもべを手にしたトランプ氏、そして、いろいろうやむやにできると期待する統一教会くらいだ。

一方で庶民の暮らしは良くなる見通しがない。与党に圧倒的な勝利をもたらした祭りのあと、待ち受けているのは人権も、安全も、生活も、社会保障も切り崩される社会なのではないだろうか。戦々恐々の中に私はいる。

選挙直前の2月3日、上野賢一郎厚生労働相は記者会見で、外国人による生活保護の適正利用に向けて、制度の見直しを検討すると発表した。

生活保護制度を準用できるのは、外国籍の中でも永住者や定住者など、国内での活動制限がない在留資格を持つ人に限られる。生活保護を利用する世帯の2.87%しか占めておらず、外国人がホイホイ制度を利用しているなんていう言説はデマでしかないのに、現政権は最も脆弱な立場に置かれた人たちを狙う。その矛先は、次には脆弱な立場に置かれた日本人にも向かうことだろう。

生活保護利用者や、低年金に苦しむ高齢者、障害のある方々の人権をどのように守っていけるか、ただただ、頭を抱えている。


輝け看護!

本人の納得のいく卒乳までの支援

立川相互病院はBFH認定施設※として、母子を支援しています。

A氏は30代の初産婦。不妊治療を経て妊娠に至りました。体調の変化や妊娠経過に対する不安が強く、臨時受診や相談が多かったため、健診回数を増やしてフォローしてきました。出産後も育児への負担感や不安が続きました。

当初は混合栄養を希望されましたが、家庭環境のストレスや母乳分泌の変化により母乳か混合か、気持ちが揺れ動きました。退院後は乳腺炎を繰り返し、産後うつの診断も受け、授乳外来や電話相談での支援は1年間で40回以上に及びました。私たちはA氏の気持ちを否定せず、心と生活状況に合わせてケアを調整していきました。

約1年をかけ、納得のいく形で卒乳に至り、「大変だったが、自分なりにやり切れたことが自信になった」「妊娠中から卒乳まで優しい言葉に支えられた」と言ってもらえました。

この支援は、民医連看護が大切にしている「生活背景を含め、まるごと受け止める姿勢」「本人の自己決定を尊重する看護」「継続的な支援」の実践と感じます。

A氏の希望は、その時々の状況に合わせて揺れ動きました。その変化を自然なプロセスとして受け止め、その選択を支えることで「自分で選んで進んできた」という実感につながりました。産後うつの診断後も、乳房ケアとメンタル面を併せて支援したことで授乳外来が産後の孤立を和らげ、「安心して話せる場所」となっていきました。

育児には一つの“正解”はありません。だからこそ、目の前のお母さんの生活と気持ちに寄り添い、その人らしい育児の形を一緒に探していくことが、私たち看護師の役割だと考えています。今後も、一人ひとりの歩みに合わせた支援を続けていきたいと思います。

(立川相互病院 鶴岡 真咲)

※WHO(世界保健機関)とユニセフが提唱する「母乳育児成功のための10ヶ条」を遵守し、母子への質の高いケアを実践しているとして認定された産科施設。「赤ちゃんにやさしい病院・BFH」

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