機関誌「みんいれんTOKYO」2026年7月号
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機関誌「みんいれんTOKYO」2026年7月号
医療現場の切実な要求に背を向ける
2026年度診療報酬改定の主な問題点と今後の方向性について
東京保険医協会事務局長 小形 歩
東京都内の開業医・勤務医約6,300人が加入し뗆保険医の経営と生活を守りながら「公的保険で良い医療뗓」実現を目指す東京保険医協会。
その事務局長である小形歩氏が、物価高騰に苦しむ現場の声を無視し、医療DXや病床削減への露骨な政策誘導へと舵を切った「2026年度診療報酬改定」の問題点を鋭く分析。
地域医療を維持するために、国民と協同して医療費抑制政策を転換させるための方向性を提示していただきました
長年に渡る医療費抑制政策の下、2016年度からの5回連続の実質マイナス改定による疲弊に加え、1年で3%を超える近年の急激な物価高騰に見舞われ、地域の医療提供体制は多大な打撃を被っています。
診療縮小や閉院、病棟の閉鎖等が現実の問題となる中、2026年度診療報酬改定に向けて、医療界は深刻な経営危機を打開し、地域医療を安定的に維持するため、一致してプラス10%以上の改定率を要望しました。
しかし結果は、本体部分でわずか3・09%、全体で2・22%の引き上げで決着しました。報道では1996年度改定以来の3%台のプラス改定と喧伝されていますが、中身は賃上げ相当分が1・7%と大半を占め、物価対応分は0・76%、通常改定分はわずか0・25%にとどまりました。
また、在宅医療の適正化等でマイナス0・15%とされ、主に内科診療所へのダメージが大きくなっています。診療報酬全体としての引き上げは極めて不十分であり、疲弊する医療現場の経営改善につながる内容とは到底言えません。
医療現場への露骨な政策誘導
まず今次改定に共通するのは、本来の診療行為そのものではなく、政策誘導や外部要件への対応で評価が左右される点です。「ベースアップ評価料」「電子的診療情報連携体制整備加算」「データ提出加算」「充実管理加算」「通院・在宅精神療法」「在宅時医学総合管理料」等はいずれも、診療の質や現場の実情より政策目的等への適合が重視されています。しかし診療報酬は本来、療養の給付に要する適正な対価として設計されるものであり、診療報酬を利用した強引な政策誘導は極力避けるべきです。
また近年の診療報酬改定では、各種届出や施設基準、報告義務等を伴う加算項目が増加しています。これは人的・事務的資源に限りのある診療所にとって大きな負担となり、診療にも支障を来しています。
そもそも厚労省自体が施設基準を適切に管理・周知できておらず、届出の要否等が修正通知や疑義解釈で後から示されることが常態化し、医療現場の混乱を招いています。
医療機関の安定的な運営と地域医療確保のためには、煩雑な届出や政策誘導による加算ではなく、基本診療料の所定点数を適切な水準まで引き上げ、広く公平に手当てすべきです。
名ばかりの物価高騰対応
厚労省は2024年度改定以降の物価高騰による経営悪化へ対応するため、初・再診料及び入院基本料等を引き上げる方針を示していました。
しかし内実は、外来医療で医科の初診料は据え置き、再診料はわずか1点のプラス、歯科の初診料は5点アップしたものの再診料は医科同様に1点のプラス、歯科の汎用点数である歯科疾患管理料は10点マイナスとなりました。過去の経営悪化分の補填としてはあまりに不十分です。
2026年度以降の物価上昇対応分については、新設の物価対応料(外来・入院)で加算するとされましたが、医科診療所は初・再診でわずか2点(27年6月から4点)、歯科は初診3点(同6点)、再診1点(同2点)と、医療機関が負担する資材費・光熱費等の物価上昇に到底対応できる水準ではありません。
これらわずかなプラスも、一般名処方加算が2点引き下げられたことでほぼ帳消しとなるため、疲弊した現場を支える十分な引き上げとは言えません。
処遇改善は基本診療料の引き上げで担保すべき
本体改定率の半分以上が賃上げ分とされ、基本診療料本体のわずかな引き上げ幅とは対照的にベースアップ評価料が大幅に引き上げられほぼ倍増となりました。これは全て従業員に還元されるものであり、医業経営の安定や設備投資等には一切使用できません。
医療従事者の賃上げは必要不可欠ですが、診療所の当該点数の届出は改定前で5割にも届いておらず、届出が低迷している同評価料への誘導があまりに露骨です。診療行為と直接関係がない「賃上げ対応」を単独で評価するのは診療報酬の趣旨を逸脱しており、本来は基本診療料の大幅引き上げで担保するべきです。
「診療報酬で縛る」医療DX政策は今すぐやめるべき
医療DX関連については、前回改定で変更・新設されたばかりの「医療情報取得加算」「医療DX推進体制整備加算」が廃止され、サイバーセキュリティー対策を要件に加えた「電子的診療情報連携体制整備加算」に再編されました。前者のみを算定していた医療機関は新たな加算を届出しなければマイナスとなり、後者を届け出ていた医療機関でも電子処方箋か電子カルテ情報共有サービスに対応しなければ初診時の点数が大きく引き下がります。マイナ保険証によるオンライン資格確認は強引に義務化されました。
しかし窓口ではトラブルが続出し、電子処方箋も医科診療所で75%が未導入です。そもそも所定点数が低く抑えられており、体制整備に応じたとしてもランニングコストの確保さえ危ぶまれます。サイバーセキュリティーの実務・費用面での過重な負担を負わせることも問題であり、診療報酬による医療DXへの強引な誘導はやめるべきです。
賃上げ対応と急性期機能再編の動向
物件費の高騰を踏まえた対応として入院料等は全般的に引き上げられました。
しかし、継続的な賃上げを行わない医療機関に対し、入院基本料等を減算する規定が新たに設けられました。経営が厳しい中で基本診療料を減算しては賃上げの原資が出るはずもなく、本末転倒です。
また、新たな地域医療構想における急性期機能の集約化の企図が鮮明となっています。一般病棟入院基本料に急性期病院一般入院基本料が新設され、病院全体での救急搬送受入件数や全身麻酔手術件数など、病院単位での機能が施設基準に持ち込まれた上、DPC/DPCSの算定が前提とされています。
今後、DPCの係数操作により病院機能のふるい分けや統制強化が進むことが危惧されます。
安定した地域医療の継続のために
主に外来医療の特徴点を中心に触れましたが、改定内容の全般を通じ、医療現場が切実に求めてきた医療提供体制の回復と療養の給付の充実には背を向けており、これまでの医療費抑制政策を継続し、さらに促進を企図するものと言わざるを得ません。
政府・厚労省は現在、2024年以降はさらに85歳以上の増加や人口減少が進行するとして、「新たな地域医療構想」の策定を急いでいます。そこでは入院医療の「病床数の適正化(削減)」を遂行するとともに、そのための条件整備として外来・在宅医療、介護との連携、人材確保等を含めた総合的な「地域における医療提供体制ビジョン」築を狙っています。27年度から「病床機能」の再編集約化)(削減)の協議を始め、28年度以降に具体的な取り組みを開始する計画であり、この流れの中に今回の改定も位置づけられています。
政府・与党はこうした政策の推進に「全世代型社会保障改革」を掲げ、「少子高齢化・人口減少」「現役世代の負担軽減」「給付と負担のバランス」などの言葉を多用して世代間対立を煽り、医療費抑制政策を受け入れさせる世論誘導を行っています。主張の要点は「公的医療給付の削減・患者負担増」です。高市政権と協力関係にある日本維新の会が社会保険料軽減を掲げ、「病床11万床削減」「OTC類似薬の保険外し」を推進したのは象徴的です。さらに2026年度予算案では様々な患者負担増メニューが盛り込まれています。
私たちは、医療機関が安定して地域医療を続けられる体制、そして国民すべてが無差別・平等の医療を受けられるよう、政府による「公的医療給付の削減・患者負担増」に基づく連続した公的医療保険制度の改悪を阻止しなければなりません。
そのためにも、医療者と患者・国民が協同して医療費抑制政策を転換させ、国民皆保険を堅持・充実させるためのあらゆる方策を講じ、粘り強く取り組んでゆくことが必要です。
輝け看護!
チームで紡ぐ、家族に寄り添う看護
認知症の90代女性は、一人息子と二人で在宅生活を送っている。デイサービスのお迎えが来ても玄関先で立ちすくみ、頑なに拒む日々が続いていた。度重なるキャンセルや噛み合わない会話に、息子は「何度言ってもわからない」と苛立ちを募らせる。自宅での言い争いは絶えず、訪問診療をしている主治医からも息子の深刻な「介護疲れ」が指摘され、休息目的のショートステイ利用を提案するよう指示が出た。
私たちはまず事業所内でカンファレンスを開催。限界を迎えている息子に、診療所へ足を運んでもらった。看護師が息子の抱える不安や深い孤独感、母親への思いを「生の声﹂として、じっくりと傾聴するためである。
この取り組みを月1回の他事業所間での会議で共有すると、周囲の仲間から「素晴らしい看護を実践しているね」と思いがけない温かい言葉をもらった。事例の共有を重ねる中で、「女性は車に乗ること自体に恐怖や嫌な記憶があるのではないか」という新たな視点にも気づかされた。
面談で息子は「母の気持ちを大事にしたい。認知症とわかっていてもつい怒鳴ってしまうが、会話を交わすことで反応を見て安心も得ている」と本音を吐露された。また「母に関わる人たちに自分自身も支えられている」と感謝の言葉を口にされた。
新たな視点や息子の思いをケアマネジャーやヘルパーらと情報共有し、知恵を絞ってアプローチする体制を整え。「良い看護だね」という仲間からの肯定的なフィードバックは、私たちの背中を強く押してくれる。この温かい評価の循環があるからこそ、私たちは立 ち止まることなく、明日もまた患者と家族の心に深く寄り添う看護を続けていけるのだ。
富士見通り診療所(雨田 はるみ)