機関誌「みんいれんTOKYO」2025年10月号

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機関誌「みんいれんTOKYO」2025年10月号

ストップ! わがまちの医療崩壊
職員・共同組織・地域・医療団体一丸で進める“緊急行動”

社会保障抑制政策の転換を

今年6月に全日本民医連から「民医連の事業と経営を守り抜き地域医療の崩壊をなんとしてもくい止めるための緊急行動(以下、「緊急行動」)」が提起され、全国の仲間が共同組織とともに立ち上がっています。診療報酬の期中改定、2026年改定での大幅引き上げをめざして、来年1月までに全国100万筆(東京8万筆)の署名行動を軸に取り組みます。

いま、医療機関の経営危機はどれほど深刻な状況にあるのでしょうか。日本医師会など6病院団体(注)は、「地域医療は崩壊寸前」と訴えています。昨年度は医療機関の倒産も休廃業・解散も過去最高を記録しました。6病院団体の合同調査では昨年度約7割の病院が赤字。全国の民医連で見ると約140の医科法人の昨年度決算で経常利益予算未達成法人は8割を超え、その結果、手持ち現預金が減少した法人も8割近くにのぼり、資金流失構造が続いています。このままでは、1961年の国民皆保険制度以来築いてきた地域医療・医療提供体制が崩壊してしまいます。

この医療崩壊の危機を止めるのは、個々の医療機関の経営努力のみでは困難です。診療報酬の期中改定や補助金の創設、そして、2026年診療報酬の大幅引き上げが必要です(6病院団体は危機打開には10%の引き上げが必要と試算)。それを実現するためには、危機の根底にある軍拡、社会保障抑制政策を変えなくてはなりません。しかし、7月の参議院選挙で、与党の自民党・公明党、野党でも維新の会、国民民主党、参政党などが社会保障の削減や抑制を政策に掲げ、またマスコミ等を通じて社会保障抑制キャンペーンが浸透していることは軽視できません。私たちは、「ミサイルよりもケアを!」を掲げ政治の転換をつくり出すために、緊急行動とともに、受療権を守るたたかい、介護ウエーブ、ドクターウエーブ、ナースアクションを一体のものとして取り組んでいきます。

県連に推進プロジェクトチームを設置しました。学習を大事にし「緊急行動」を推進していきます。各法人・事業所で共同組織や労働組合とも協力して創意工夫した取り組みが開始されています。

署名は、9月24日現在で東京勤医会の4042筆をはじめ、8443筆集まり、目標の10%を超えました。地域の医療機関への働き掛けも開始されています。健生会では、近隣の病院を訪問し、取り組みへの共感を広げています。また健和会の取り組みををきっかけに、6月、埼玉県三郷市市議会で診療報酬期中改定等を国に求める請願が採択されました。各事業所の取り組み状況など、県連にお知らせください。

全国を見渡せば、6病院団体が9月10日に緊急の提言を発表したり、全国知事会や指定都市市長会が対応を求めるなど「医療を守れ」という声が広がっています。

先日、武蔵野市で病院に1床あたり1日290円の補助を出す補正予算が全会一致で決まるなど、地方自治体単位での緊急支援の動きもあります。

社会保障抑制政策に立ち向かい、人権とケアを大切にする社会・未来のために、大きな運動にしていきましょう。

(注)日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会

まやかしの「医師偏在」~医師不足の解消を~
東京民医連医師委員長 岡部敏彦

「医師から病状説明をしてもらえなかった」「聞きたいことを遠慮してしまう」という声を聞きますが、医師はわかりやすく説明するための時間を多く取れないのが現実です。医師不足は本来あるべき患者と医師の「協力・協同」の関係を破壊しています。

この間、医師・医学生は「医師増員を求める」署名運動で8370筆の署名を国会へ提出しました。国は「医師不足の原因は都市圏などに医師が集中しているから」と「医師偏在論」に固執しています。しかし東京でも医師不足が深刻です。医学部定員の増加、医学研究・教育施設への適切な助成が必要です。「医師増やせ」の運動は、民医連が大切にしてきた「人々が平等に医療を受けられる権利」を守る運動と地続きなのです。

政府は“医師は過労死レベルの80時間の時間外労働をして、80歳まで働き続ける”前提で医師は足りている、としています。全日本民医連では医師偏在ではなく全国で医師が足りない「絶対的医師不足」を解説した80(エイティ)‐80(エイティ)パンフレットを作りました。職員で学びあい、患者さんや共同組織のみなさんと語りあい、国の政策を変える国民的な運動を作っていきましょう。

透析患者さんもわが事として
東葛病院腎センター看護師長 久保田祐子

東葛病院には約250人の透析患者がいます。透析の患者さんは長期間にわたり、週3回透析を受けています。病院とは強い信頼関係ができています。もしその病院がなくなれば、療養に大きな支障をきたします。「病院がつぶれちゃったらたいへん」とご自身が危機感を感じて、本人はもとより、家族や近所の人にも署名用紙を配ってたくさん集めていただいています。

独自チラシで、団地に呼びかけ
代々木健康友の会 柴田桂馬(95歳)

私の住む団地の号棟は、高齢者や病気を持つ人が多く、病院にかかりきりの世帯も珍しくありません。もし医療機関が危機的な状況になれば、私たちの暮らしは成り立たなくなってしまう。この危機を食い止めたいと強く思いました。高齢の方にも伝わるよう、妻と相談して独自のチラシをつくって、号棟全戸に配布し、27世帯43筆の署名が集まりました。食道がんで苦しんだ夫が亡くなり、お一人になった女性から「病院がなくなったら大変」と声をかけられ、この活動の重要性を再認識しました。他の住民の方からも「頑張って」と声をかけられ、励みになっています。

実りの秋を迎え、朝夕の空気に季節の深まりを感じる頃となりました。私たちは今、「ケアの倫理」の学習を進めています。日々の業務を改めて見つめなおし、「医療・介護活動の二つの柱」と、その根底にある「相手を尊重し、関係性を大切にする姿勢」への理解を深めています▼一方、現場では深刻な人材不足に直面しており、私たちの事業所でも人材の確保と定着が課題です。だからこそ今、「数」だけでなく、「互いに育ちあう文化」を築くことが重要です。小さな気配りや労いの言葉は安心感を生み、成功体験の積み重ねは、やりがいを実感するきっかけとなり、離職防止にもつながります▼印象的だったのは、県連に寄せられた感想です。「利用者さんを励ますつもりが、逆に優しい言葉をかけてもらい、自分が支えられていることに気づいた」と。この言葉は、ケアとは一方的ではなく相互に響きあう営みであることを教えてくれます▼人材不足という課題に向きあう今だからこそ、多職種が連携し「共に支え、共に育つ」関係を大切にしたいと思います。「ケアの倫理」を職場の文化として根づかせることは、患者・利用者の尊厳や地域を守り、職員やチームの成長につながり、持続可能な無差別・平等の医療・介護・福祉を築く力になるのではないでしょうか。
(理)


第3回桐生市事件とはなにか

いま伝えたいこと
つくろい東京ファンド
小林 美穂子

パンドラの箱が開いた

2023年11月、群馬県桐生市が生活保護を利用していた50代男性に、毎日ハローワークに通ったことを確認した上で、窓口で一日千円を手渡しし、月内に基準額の半額程度しか支給していなかった前代未聞のケースが明らかになった。

その一件を皮切りにして、桐生市の苛烈な水際作戦や、生活保護利用者の印鑑を1948本も保持し、本人の同意なく受領簿に押印していたことや、保護費支給の大幅遅延、利用者の意思に反し、民間の金銭管理団体と契約させ、一日千円相当の厳しい分割支給をさせていた等々、大量の問題が噴出した。

市職員による市民虐待レベルの暴言や威嚇行為は、現地の支援者間でも有名だった。

桐生市では2012年から暴力団対策経験のある警察官OBを会計年度任用職員として雇用しており、ケースワーカーが10人程度の小規模な福祉事務所に、最大時で4人もOBが配置されていた。暴力団関係者や不当要求への対応要員としてOBが配属されるのは珍しくはないが、他自治体と異なるのは、その数と職務内容だ。新規面談のほぼ全てに同席させ家庭訪問や就労指導も担わせていた。

扶養偽装とカラ認定

申請者の親族に援助の可否を問い合わせる「扶養照会」は、申請者の事情に考慮することなく行われ、その対象範囲も広かった。それどころか、実際には存在しない親族からの仕送り収入を認定して申請を却下したり、仕送り収入を水増しして保護を減額したり、「境界層該当措置」を悪用した保護申請却下にまで手を染めていた可能性が群馬県の特別監査によって浮上した。極めて悪質な、犯罪の域である。
※境界層該当措置とは:収入水準が最低生活費の境界に位置し、医療・介護に必要な費用を減額すれば要保護状態でなくなる場合に適用される措置。

これらの対応が結果として表れているのが生活保護件数だ。県内他自治体の保護件数が年々増加しているのに対し、桐生市は2011年度をピークに下降の一途を辿り、10年間で半減させている。中でも顕著なのは母子、傷病者、その他世帯の減少で、母子世帯に至っては2011年度に27だった世帯数が2021年度には2世帯になっている。

保護申請に対して却下・取下げ率は異常なほどに高く、42・9%(2020年度)である。同年度の東京23区の平均が4・8%、全体的に却下・取り下げ率が高めの群馬県市部平均でも14・2%なのを見れば桐生市の異様さは際立つ。

つまり桐生市は、困窮した市民が窓口を訪れた瞬間から、職員一丸となってあらゆる手段を使って申請をあきらめさせる水際作戦を繰り出し、それでも申請されたら、今度はいやがらせをしたり、扶養や境界層該当措置などの制度を悪用することで保護世帯を減らしてきたと見るのが自然だ。一体なぜ、こんなことが長年放置されてきたのか。

沸き上がる差別意識

2012年といえば、日本中に生活保護バッシングが吹き荒れた年だ。「生活保護を恥と思わないのが問題」と発言した片山さつき議員をはじめ、同年3月に発足した自民党の生活保護に関するプロジェクトチームの座長を務め、保護費削減を主導してきた世耕弘成氏は、生活保護利用者の「フルスペックの人権」の制限も厭わないと発言した。備蓄米ヒーロー小泉進次郎氏や、子ども食堂を視察した三原じゅん子氏もこのチームのメンバーである。小泉氏と並び次期総裁候補として名が挙がっている高市早苗氏は「さもしい顔して貰えるものは貰おう。弱者のフリをして少しでも得しよう。そんな国民ばかりでは日本国は滅びてしまいます」と語り、林芳正氏は「生活保護制度を悪用して、自分のポケットに入れているような人が出てきた。はた迷惑な人ですね」と街頭演説し、生活困窮者に負のレッテルを貼り、露骨に市民の憎悪を煽ってきた。

桐生市の生活保護件数が減少し始めたのが2012年。無関係ではなかろう。政権に忖度した厚労省が、保護費の減額、利用者への管理強化を推し進めたことも、市の差別意識、管理意識を強化しなかったか。

問題の根幹を見つめ

昨年、市が設置した第三者委員会(委員長・吉野晶弁護士)は、今年3月28日に報告書を荒木恵司市長に提出。報告書は、「1日1000円」等、市が生活保護費を細切れに支給し、月内に満額を渡さない対応を生活保護法違反と認定。満額を支給していないにもかかわらず、支給していたと虚偽記載していたり、印鑑を無断押印していたのは「組織的不正」であり、「規範意識が崩壊」していると糾弾、それを受けて荒木市長は過去の利用者半減の理由を「申請権の侵害が生じていたことが大きな要因であった」と、問題発覚から16か月後に初めて認め、謝罪した。しかし、あまりにも問題が多く、闇は深く、第三者委員会で検証できたことはほんの一部にとどまる。私は、棚上げされた問題をうやむやにされてたまるものかの一念で、東京新聞の小松田健一記者と共に『桐生市事件―生活保護が歪められた街で―(地平社)』を上梓した。

現在、桐生市の生活保護行政は、表面上は改善され、保護件数も増加に転じている。

第三者委員会が終了してから4か月後の7月、生活保護問題の内部調査チームを率いていた森山享大副市長が新庁舎建設をめぐる官製談合防止法違反、加重収賄の容疑で逮捕され、8月には荒木市長の公職選挙法違反の疑い、また、寄付216万円支出不記載などで大学教授に告発されたことが報道された。桐生市の闇はどこまでも深い。
(※小見出し一部編集部)


輝け看護!

もの忘れ外来から始まる穏やかな老後

5月中旬より週1回、専門医の力を借り「もの忘れ外来」を始めました。経営が悪化してからは、数々の縮小を続けてきた中での、外来単位の新設。地域の組合員さんからも、期待の声が寄せられました。

Aさんは長年の通院患者さんです。予約の日に来られなくなり、電話で受診を促して1年近く、いつも1人で受診でした。「薬は飲んでいるけどたくさんあって何が何だかわからないのよ。家に山ほど薬があるわ」と笑って返答。ご家族が来院された時に相談しても「何とかやっているようですよ」と他人事。それが、ある日「生協だよりを見ました。もの忘れ外来の予約をしたい」とご家族。

初めの頃はAさんの言動にイライラしている様子が見受けられましたが、回数を重ねるうちに「あなたの面倒は私がみるからね」と待合室で宣言。検査センターや他院受診の時など、いつも2人で行動されるようになりました。そんなご家族の変化に、Aさんは「どこにでも付き添ってくれるいい人なの」と周囲に自慢するようになりました。ご家族も「明るいからいいですよ」と返されるなど、2人の絆が日々深まりつつあると感じられる光景でした。

組合員さんから心配の声が寄せられていたBさんは、他院通院患者さん。今まで介入の糸口が見つかりませんでした。たまたま健診の予約に来たBさんに「物忘れ外来を始めました」と声をかけて診察予約。はじめは「家族は来られない」と言い張っていたBさん。家族へ連絡を取ると、付き添いでの受診が叶いました。

「もの忘れ外来」を始めてまだ4か月、かかりつけ医という利点を生かし、独居でも、認知症でも、人としての尊厳が守られ、穏やかに暮すためのスタートを切れるように支援していきたいと思っています。
(むさし小金井診療所 三輪 絹子)

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