成人教育における経験の役割 経験(experience)を学習の<方法>として用いること(デューイから始まる)や、経験を学習の<資源>として用いること(ノールズ)が、成人教育における二つの基本概念になっている。経験は、行動、考え方、感情を含むものとしてとらえられる。自分がどのように行動したか、どのように考えたか、どのように感じたかを振り返るプロセスは学習の鍵となる構成要素とされており、ある経験に立ち戻りながら、中に含まれる積極的な考え方や感情を用い、学習の障害になっている考え方や感情を調べて取り除き、そして経験を再評価するという作業である。その成果は経験に対する新しいものの見方の獲得であり、行動の変化であり、活動の計画である。まず最初の経験の中身が、それから学習者のその経験への反応が、経験の振り返りと経験からの学習の土台となるのである。 経験の性質(個人的、専門的、教育的など)がどうであるにせよ、経験は、一人ひとりが自分のまわりの世界を理解する方法を、彼らが身につける前提を、彼らがもっている信念や知識を形作っている。新しい学習のプロセス、つまり変化と成長と変容のプロセスにおいては、これまでの経験が土台を形成しているのであり、この意味において、過去の経験を「無視する」ことは不可能なのである。どのような学習状況であっても、経験は背後に存在している。私たちが認識しておかなければならないのは、これまでの経験を明らかにし、それからあらゆる学習状況の中でその経験を活用する必要があるということである。 |