東京民医連

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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

新型コロナ感染症拡大のなか 医療や介護、福祉の現場で働くみなさんへ
自分への誇りを持って 仕事を続けてください
精神科医 香山 リカ

心身ともに大きなストレスのなかで
 なんといっても今回の新型コロナウイルス感染症の影響をもっとも受けた職業、それは医療や介護、福祉の現場で働く人たちだ。緊急事態宣言が出ていた間、ほかの仕事はテレワークに切り替わったが、それらの職場は遠隔でというわけにはいかない。
 そして、そういった仕事についていた人たちは、「不安や心配、疲れ」とともに「仕事や自分への誇りや使命感」も強く感じる、というこれまで経験したことのない数ケ月をすごしたのではないだろうか。
 心身ともにもっともストレスが高かったのは、言うまでもなく、コロナ感染症の診療を直接行う医療従事者やその職場に勤める人だろう。テレビなどでは毎日のように、医師や看護師らの院内感染が報じられる。欧米では命を落としたスタッフも少なくない。発熱し、そういった医療機関でPCR検査を受けた私の患者さんが、こう言っていた。
 「検査を受けるとき、ナースと私のふたりが試着室くらいの狭いビニールハウスに入るんです。ナースはその入り口を完全に閉鎖して、それから検査が始まります。私はもう、自分が陽性かどうかより、“ああ、この看護師さん、たいへんだな。怖いだろうな。でも冷静ですごいな”ということに気を取られて…。そのあと陰性という連絡が来てホッとしましたが、あのナースのことが頭から離れません。テキパキ仕事をこなし立派な人でした。」

 

この人たちを感染させてはならない
 感染の危険にさらされたのは、医師や看護師、放射線技師などの医療職だけではない。私がかかわっている医療機関では、受付の事務職の人たちが、実質的な発熱者のトリアージを担当していた。そこに人員を割けなかったからだ。「お熱はいつからですか?」「コロナの方と接触したことは?」などと質問して答えを書きとる間、来院者に向き合う受付スタッフは、マスクはしているとはいえ、ゴーグルやガウンなどそれ以上の防護策は取っていない。
 「彼女たちを最前線に立たせてよいのか」と私は気が気ではなかったので、あるとき「誰かにかわってもらいますか?」と声をかけると、受付スタッフは「大丈夫です!患者さんに接近しすぎないように気をつけてますから」と明るく答えた。「ああ、彼女は仕事に誇りと使命感を感じながらやっているんだ」と私は胸がいっぱいになり、「この人たちを感染させてはならない」といっそう強く思ったのだった。

 

差別や偏見のなか感謝や尊敬の声も
 欧米では、医療機関や介護・福祉施設で働く人たちへの感謝や敬意の声が高まっている。自らもコロナ感染症にかかり、九死に一生を得たイギリスのボリス・ジョンソン首相は、決まった時間に自宅前に姿を現し、医療従事者への拍手を1分以上、送り続けている。ニューヨークでは、高級ホテルがコロナ診療にあたる人たちに無料で客室を提供し、宿舎として利用してもらっているのだそうだ。
 一方、日本ではどうだろう。一部で感謝の動きはあるとはいえ、残念な報道もある。医療機関や施設で働く人は感染のリスクがあるとして、看護師が子どもの保育を保育所から断られたりタクシーで乗車拒否にあったりしているというのだ。もちろん無症状でも感染しているケースがあるとはいえ、露骨に偏見を向けられ差別されることで、看護師らの疲労感は何倍にもなるだろう。それは本当に許されないことだ。
 ただ、そういった心ない差別や偏見がメディアで取り上げられるたびに、ネットには「間違っている」「ナースにはリスペクトしかありません」という声もあふれる。そして、コロナ診療にあたる看護師らの子どもの保育をこれまで通り続ける保育所や、手洗いなどがむずかしく感染リスクが高い障害者を受け入れる施設などに対しても、感謝や尊敬の声が上がる。そういう意味では、少しずつではあるが、日本の人たちも学び、社会が変わりつつあるのではないかと希望も持っている。

 

ゆっくりからだを休め心にも栄養を
 「ああ、しんどい」と思ったら、ぜひたまにネットなどでアメリカのCNN、イギリスのBBCといった放送局のサイトを見てほしい。それらには日本語版もあるが、それを見ると世界の人たちが医療従事者にどれほど感謝しているのかがわかるだろう。イタリアの人やブラジルの人たちが、応援の気持ちを表すために家族で歌を歌ったり仲間でダンスを披露したりしている動画も見つかるはずだ。それは、誰か特定の医療従事者や介護・福祉職の人たちのためだけではなく、あなたのためにも送られた“世界からのエール”なのである。
 幸いにしてコロナ第一波は収束しつつあるが、今後、第二波、第三波が来ないとも限らない。そのときのために、仕事が少しでも落ち着いたら自分をおおいにねぎらい、ゆっくりからだを休め、心にも栄養を与えてあげてほしい。
 「私はすごい。世界が私を応援している。」自分への誇りをこれからも持ち続け、胸を張って仕事を続けてください。私も、もちろん全力で応援します。