東京民医連

ニュース

みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

コロナ禍と災害対策
関連死、避難所、住宅再建について
神戸大学名誉教授 塩崎 賢明

施策の不備・失敗による「復興災害」
 新型コロナウイルスのパンデミックが収まらないなかで、2020年7月現在、すでに豪雨災害が発生しています。今後さらに台風や豪雨が襲う可能性もあり、地震・津波などが重なれば深刻な複合災害となります。地球環境の悪化や南海トラフ地震の発生確率などを考えれば、複合災害の危険性は小さいとは言えず、全国どこででも起こりうると想定しておくべきです。
 日本の災害対策には様々な問題がありますが、ここでは関連死、避難所、住宅再建について述べます。1995年の阪神・淡路大震災以来各種の災害が相次いでいますが、最近のひとつの特徴は関連死の割合が増加していることです。東日本大震災の福島県や熊本地震など、直接死よりも関連死のほうが上回る例もあります。
 関連死が増えている主な理由は避難所への移動や避難生活における肉体的・精神的ダメージであります。阪神・淡路大震災の孤独死は2019年末までに1404人にのぼります。これとは別に公的に確認された関連死も932人存在し、過去20年間の全国の関連死総数は5000人に達します。関連死や孤独死の原因は災害そのものではなく、災害後の対応策にあります。このような復旧・復興施策の不備・失敗が原因となって生じる被害を筆者は「復興災害」と呼んでいます。復興災害は関連死だけではありません。統計的な数字はないのですが、避難や復興の過程で十分な医療が受けられず、病気が増悪し、死に至らないまでも寝たきりになるといった関連疾病は膨大にあるでしょう。

 

劣悪な避難所改善の体制構築を
 日本の避難所は、学校の体育館などに開設されることが多く、それ自体、国際的な水準から大きくかけ離れたものですが、そこでの生活は密集した雑魚寝、冷たい食事、清潔とは言えない不便なトイレなど極めて劣悪で、約100年前の関東大震災当時からほとんど進歩がありません。
 こうした避難所の状況について国は「通知」や「連絡」などの文書を地方自治体に発出し、さまざまな対応が可能なように一定の財政措置も準備しています。しかし、それで安心できるわけではありません。これまでも内閣府などでは避難所の運営についてそれなりの認識を持ち文書も出していますが、現場での対応は必ずしも改善されてきませんでした。
 一つには被災する自治体の側が同水準の認識に立てないまま、経験主義や責任回避主義が幅を利かし活用できる制度も生かされないという面があります。しかし、国も文書連絡をすれば後は自治体の責任とするのではなく、現場での改善に最後まで責任を持つといった姿勢が必要です。3密をさけるためにソーシャルディスタンシングが必要で、被災者の間隔を2m以上あけるようにといってもそれが実際にどこまで実現できるのか。避難所以外の避難場所も考えよといっても親戚や友人宅が近くにあるとは限りません。災害時には普段やっていないことはなかなかできません。100年近くも密集した雑魚寝と冷たいおにぎりの食事を続けてきたつけを一気に変えることの困難に直面しています。今からでも、段ボールベッドや快適なトイレ、温かい食事をすべての自治体が提供できるように国が先頭に立って体制を早急に構築するべきです。

 

個人まかせが基本の住宅再建
 いま一つの問題は災害で住宅を失った場合、いかにして安心できる終の棲家を確保するかです。豪雨災害の特徴は破局的大地震・津波などと比べて死者こそ多くありませんが住宅被害が蔓延することです。大阪北部地震、北海道胆振地震、台風15号、19号といった災害では圧倒的に一部損壊が多く、被害から2年たっても壊れた家を直せない状態が続いています。住宅再建を支援する制度としては被災者生活再建支援法があり、最大300万円の支援金がでますが、現状では半壊以下の被害は対象となりません。この点について国はようやく半壊にも支援金を出す方向を検討し始めました。また一部損壊に対する支援はほとんどなく、国は台風15号災害を見るに及んでようやく30万円を限度に地方自治体に資金を供給する道を開きました。
 しかし、こうした一部損壊の被害でも雨漏りがする、柱や壁が水を吸って次第に腐ってくる、カビが生えるなど実際に住むという点では極めて深刻で、きちんとした補修をすれば、数百万円以上の費用が掛かってきます。補修がすすまないのは資金がないのが主たる理由と思われますが、工事をしようにも業者が来ません。また、高齢のため医療費や介護の費用が掛かる、余命が長くない中でいまさら大金をはたいて補修することに踏み切れない、など今後のことを考え壊れた家のまま住み続けるといった実態があります。
 つまり、このような災害の被害は被災者側の主体的な条件と複雑に絡みあって回復が容易ではありません。高齢化がさらに進み、老朽化した住宅の一部が損壊したものの補修できないまま暮らさざるを得ない状況が広がっているのです。
 災害に遭遇した場合の復興において、生命・健康の確保が第1でありますが、次いで重要なことが住まいの確保です。これまでの災害対策では、住宅再建は個人まかせが基本になっており国費の投入は極力抑えられてきました。被災者生活再建支援法で支援金は最大300万円出るといいますが、東日本大震災で支給された総額はわずか3600億円(2019年1月現在)です。総額32兆円をつぎ込んだ復興予算の全体から見ればいかに低い位置づけであるかがわかります。全国を覆う災害に備えて早急に抜本的な制度改革が必要です。


クリックで拡大

 

〈プロフィール〉
 しおざき よしみつ/神戸大学名誉教授・工学博士(京都大学)/日本住宅会議理事長/兵庫県震災復興研究センター代表理事/避難所・避難生活学会理事/大船渡市復興計画推進委員会委員長/著書「復興〈災害〉」(岩波新書、2014年)、「住宅復興とコミュニティ」(日本経済評論社、2009年)など/2007年日本建築学会賞