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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

一票の活かしかた
法政大学教授 上西 充子

私たちの一票は政治を動かしている

 総選挙が近づいてきました。立憲民主党の枝野幸男代表は、自民党の総裁選を「準決勝」、総選挙を「決勝」と呼び、今回の総選挙を政権交代の選挙と位置付けています。
 9月は総裁選の話題が連日報じられ、野党の存在感がかすんでしまうと、やきもきしたかもしれません。けれども見方を変えれば、既に私たちの一票は政治を動かしているのです。菅義偉首相が総裁選への不出馬を表明したのは、内閣支持率の低下傾向に歯止めがかからず、このままでは総選挙は勝てないとの声が党内で高まったからでした。私たちのこれからの投票動向が、与党には脅威に映ったからこそ、総裁選で新しい「顔」が求められたのです。
 “「私には力がある」「私たちには力がある」。今年はこれで行きましょう。「微力だが無力ではない」。この言葉を思い起こしながら動いてみたら、案外「微力」でもなかった、というのが、ここ数年の自分の経験でした。私たちには社会を変える力がある。力はすでに、私たちの中にある。”――これは私が2020年の元旦にツイートしたものです。そのあとすぐにコロナ禍が広がってしまい、不安で困難な状況が続きましたが、今あらためて、私たちは既に持っている自分たちの力を自覚し、それをより有効に生かしていきたいものです。


一票は候補者に確実に力を与える

 では、私たちには何ができるでしょう。自分が投票した候補が当選するという経験が国政選挙ではなかなかない、という人も多いでしょう。私もそうです。そうすると、投票に手ごたえを感じにくいですよね。けれども私は、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見て、選挙は当落という結果だけじゃないんだと気づかされました。
 希望の党騒動の中で不本意ながら同党所属として出馬した小川淳也議員は、現在のデジタル担当大臣である平井卓也議員と香川1区の小選挙区で議席を争うのですが、負けて比例復活当選となります。その投票結果を見守る候補者と支援者の姿から私が知ったのは、たとえ選挙区当選に至らなくても前回に比べて票が増えて票差が縮まるということは、次の挑戦に向かう上で候補者と支援者の力になるのだ、ということでした。自分の一票では当選にはつながらないかもしれない。それでもその一票は、その候補者に確実に力を与えるのです。

 

「立ち止まる一人」になるだけでも

 私たちは日頃、「お前は無力だ」と言わんばかりの「呪いの言葉」にさらされ続けています。デモに対しては「選挙で変えるしかない」と言われ、選挙に対しても「一票では変わらない」と言われる。それらは一見もっともらしい言葉ですが「こうすれば変わる」と言わずに、「それでは変わらない」と言い募るのは「何をしても無駄だ。あきらめろ」と言っているのと同じです。実際には私たちは無力ではないからこそ、安倍首相も菅首相も、首相の座から退かざるをえなかったのです。
 「どうせ政治なんて」とか「野党は反対ばかり」とか、そんな言葉に押しとどめられずに、自分の一票を何倍にも活かす方法を考えてみましょう。映画『なぜ君』にはいろんなヒントがあります。高層マンションから手を振る女性。集会で候補者に「大丈夫や」と声をかける支援者。他方で、チラシを受け取らず素通りするサラリーマン。「お前、安保法制、反対しとったやんか」と候補者を責める男性。候補者一人に背負わせすぎず、有権者である私たちが目に見える形で支えれば、それは候補者の力になると共に周りの人が政治に一歩、近づくきっかけにもなりえます。
 例えば駅前の演説に立ち止まって見る。一人が立ち止まれば、他の人も立ち止まりやすくなります。耳を傾ける人がいれば、候補者も語りがいがあるでしょう。そんな「立ち止まる一人」になるだけなら、いろんな選挙区に行ってみることもできます。

 

借り物ではなく自分の言葉で語る

 投票率が低い現状を前にして「なぜこの状況で政治に無関心でいられるのか」と憤るよりも、自分にできることを何かやってみる。そうやって私たちが政治に関心を持つことを「当たり前」にしていくことが、遠回りなようでも大事な一歩であると思います。
 行動することと共に私たちにできることは、自分の言葉を持つことです。「医療現場が大変といっても飲食の現場も大変」「学術会議の任命拒否問題より経済が重要」「弱者救済よりも私たちの暮らしを良くしてほしい」―――そういった声に対し、自分はどう答えることができるか。相手の思いをくみ取りつつ、「確かにそうかも」と思ってもらうことは容易ではありません。けれども、無党派層に支持を広げていくためには、私たち自身が借り物の言葉でなく自分の言葉で語れるようになることが大切です。
 衆院選は大きな山場ですが、来年には参院選も控えています。これまでの市民と野党の地道な努力が実を結び、今回の衆院選は野党が大きな勢力として力を合わせることができそうです。そこに私たちがどう力を足すことができるか。一人ひとりに、できることがあります。
※小見出しは編集部

 

上西充子さんのプロフィール

 法政大学キャリアデザイン学部教授。国会審議を解説つきで街頭上映する国会パブリックビューイングを2018年6月に始めた。
 「ご飯論法」で2018年の新語・流行語大賞トップテンを受賞。著書に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)、『政治と報道』(扶桑社新書)など。