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みんいれんTOKYO(機関紙)1面の記事の抜粋です

政府はなぜ防衛費を毎年増額するのか
ジャーナリスト・日本平和委員会常任理事 末浪 靖司さんに聞く

 昨年12月24日に閣議決定された2022年度当初予算案では、防衛費が前年度比583億円増の5兆4005億円と10年連続の増額で過去最大となりました。その前の臨時国会で成立した補正予算にも7738億円の防衛費が潜りこまされており、合わせると防衛費は6兆円台を突破しました。一方では診療報酬はマイナス改定(▲0・94%)で、財政的に厳しい医療機関にさらに追い打ちをかけ、75歳以上の医療費窓口負担2割化の今年10月からの実施を決めました。
 歴代の自民党政権も憲法9条の下で守ってきた「防衛費GDP1%」の枠も取っ払いました。政府がこのような防衛費を増やしていく背景や問題点について、日本平和委員会理事の末浪靖司さんにお聞きしました。

 

社会保障費削り軍拡へ
9条無視 6兆円の税金投入

―そもそも、なぜ、日本の防衛費がここまで膨れあがったのでしょうか?
 国際情勢、特に米国との関係です。朝鮮戦争が勃発した1950年に再軍備が始まり1954年に自衛隊ができて、1960年の日米安保条約改定により米国は常に自国の戦争への日本の協力を求めてきました。しかし、日本には憲法9条とそれを支持する市民の運動と政治勢力があり、歴代の自民党政権でも防衛費に歯止めをつくってきました。それが「GDP1%枠」です。
 しかし、安倍政権になって再び防衛費は増え続け、2020年度に初めて「1%」を突破し、2022年度は1・27%になっています。国会で共産党や社民党のような、防衛費の問題を追求する勢力が減っていることも影響しています。

―どういったものが防衛費に計上されているのですか?
 例えばF35戦闘機購入費が12機分です。F35戦闘機の航続距離は実際には約4000kmと言われており、中国の奥地まで飛行できます。
 「思いやり予算」と呼ばれる米軍駐留経費負担も前年の倍の5590億円が計上されています。馬毛島への米軍訓練の移転に3180億円です。これらはすべて国民の税金です。税金がこのような使われ方をすることについては私たち1人ひとりが考えていかなくてはいけない問題です。

―岸田首相は「敵基地攻撃能力」の保持を検討すると国会で演説しました。「敵基地攻撃能力」とはどういうことですか?
 これはミサイル防衛計画が破綻して、日本が独自に考えた理屈です。技術的進歩でミサイルの迎撃が事実上困難になってきており、相手国のミサイルが発射される前に破壊するという発想です。
 しかし、ここでいう「敵」とはどこかということが問題です。「敵」とされた国とはますます険悪になるでしょう。
 米国ではトランプ政権になって米中関係が悪化し、台湾海峡の問題が盛んに煽られていますが、バイデン政権は中国と一戦交えるということは全く考えていません。

―「自衛」の範疇を超える兵器が配備され、米軍に関係する費用もとんでもない多額になっていますね。なぜ、そこまで米軍に協力しなくてはいけないのでしょうか?
 日米安保条約に基づいて日本に駐留する米軍の出動範囲は地球的規模に拡大しました。また米軍と自衛隊が共同作戦することを取り決めた「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)は2回改定され、日本防衛という限定は外されて世界的規模に拡大されました。日米安保条約の第4条には「脅威が生じたときは日米が協議する」とあり、これは米軍が自衛隊を指揮して戦争する秘密の約束つまり密約です。米国の公文書で明らかになりました。
 戦後、米国は常に地域紛争などで軍事力を行使してきました。米国経済が軍需産業によって立つところが大きいからで、そのための協力を日本に押し付けているのです。

―米国の軍事力は全世界に及んでいますが、世界の多くの諸国が日本のような協力をしているのでしょうか?
 そうではありません。東南アジアが代表的です。
 かつてはSEATO(東南アジア条約機構)という米国中心の軍事同盟がありましたが、解散しました。ASEAN(東南アジア諸国連合)が結成され、対話と協調のネットワークで連携しています。
 中国の覇権主義的な行動にも粘り強く対抗しています。
 南シナ海での中国との紛争では、フィリピンは国際司法裁判で勝訴しました。
 このように外交でねばり強く対抗しています。

―民医連は綱領に憲法9条を活かした平和の実現を掲げています。しかし、今の日本はきな臭く感じます。この状況を変えるには何が必要でしょうか?
 2015年の安保法制反対運動は若い人も含めて多くの人が行動しました。その後は当時のような目立った行動はありませんが、マスコミが取り上げないことも影響しているでしょう。しかし民医連のみなさんをはじめ学習や宣伝行動がねばり強く続けられています。
 新型コロナウイルス感染拡大第6波では、沖縄の米軍基地から感染が広がりました。米軍人は検査や待機期間なしに自由に入国し、自由に基地の外で飲食しています。日米地位協定によって多くの特権があるからです。米軍人だけでなく、その家族、軍属も基地から日本の規制なく出入りします。そのため私たちの健康や生活が脅かされています。
 日米地位協定は私たちの生活に深くかかわっています。
 防衛費や米軍関係の支出が増えれば、社会保障は必ず削られます。医療に従事する皆さんにもかかわりのある問題として考えていただければと思います。

 

 

末浪靖司さんのプロフィール
 1939年生。大阪外国語大学(現・大阪大学)卒。米国立公文書館で日米関係を研究。著書『対米従属の正体』など。現・日本平和学会会員、日本平和委員会常任理事。