東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

温厚なAさんに笑顔戻る

 今年の2月にAさん(85歳)と出会いました。乳癌の手術を受けたときは、すでに広範囲に転移していました。癌転移による腰痛の緩和のため入院され、 「こんなに痛いなら身体中の全部に癌が回っているのかも。もう駄目かしらね。車椅子にも乗れなくなっちゃった」と、痛みのため徐々に動けなくなり不安を訴 えていました。温厚な性格で笑顔だったAさんが、不明瞭な言葉を叫び笑顔がなくなっていきました。
 Aさんは身寄りがなく、都営住宅に1人住まいでした。取り壊しが決まっており、家がなくなるという不安もあったようで、「生きていても仕方ない。寂しい、寂しい」と訴え、ナースコールを片時も離さず、不穏状態になることもありました。
 何度か「帰りたい」と言うことがあり、看護師が付き添い、ストレッチャーで介護タクシーを使い家に帰りました。疲れもありましたが「帰れて本当によかっ た。嬉しかったわ」と久し振りの笑顔が見られ、家の様子などを沢山話してくれました。その日から不穏状態になる事は徐々に減ってきました。
 チームで相談しAさんのベッドを日の当たる窓側に移し、時にはベッドのまま散歩に行きました。美空ひばりが好きと聞けば曲をかけ、日中、看護師ができる 限りそばにいるように努めました。夜になると「まだ生きているの? 怖い。早く死ねばいいのよ」と不安になることも。そんなときは足浴をしながら話を聞 き、少しでもAさんが感じている死への恐怖を軽減できたらと援助をしました。
 そのようなケアを続けていく中で、以前の温厚なAさんに。笑顔が多くなり穏やかな時間を取り戻せるようになりました。9月に緩和ケア病院に転院が決まり、転院時、「ありがとう」と何度も繰り返され涙を流されていました。
 Aさんが様々な不安と葛藤している中、薬に頼らず寄り添うことで本来の姿に戻れたことに、看護の力を感じる事ができました。
(大田病院・2010年12月号掲載)