東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

夢を叶えるお手伝いを…

 伊藤恵子さん(享年74歳)は、お花見の外出をきっかけに自分のことを多くの人に知ってほしいと「新聞健友」に投稿してくれました。
 筋萎縮性側索硬化症で気管切開・人工呼吸器がついて10年。話すときは管に酸素を流し、空気が漏れないよう管の入っている喉元を介助者が押さえて幽かな 声を出す。栄養は胃ろうから栄養剤を注入。子どもはなく長年介護していた夫は長期入院。お花見を兼ねた外出は伊藤さんの夢でした。
 主治医、訪問看護師、ヘルパー、ケアマネで毎年計画しますが、天候や体調不良等で実現できずにいました。去年の4月やっと条件が整い、中野通りのお花見が実現!リクライニングの車椅子の下に人工呼吸器、吸痰の器械、酸素ボンベを積んで出発。
 長く体を起こせない伊藤さん。久々の外出で仲良かった人に挨拶をしながら桜が咲く中野通りに出たのが家を出て30分後。桜の下で記念撮影をしてすぐ帰る と思ったら「まだ行く。大丈夫」と言われ、自宅に戻ったのは1時間40分後。外出のためにと長時間のベッドアップ訓練を続けた成果でした。これが自信につ ながり、その後は「お兄さんのお店での食事会」を実現し、体調も万全ではなかった昨年12月「夫の入院している病院へ面会に行く」思いも実現できました。
 春になったら…という周りの心配をよそに「何としても!」には、恵子さんなりの理由があったよう。明けて1月、帰らぬ人となりました。
 「同じ病気の篠沢教授に会いに行く」は実現できませんでしたが、愛する夫に会えて本当に良かったと思います。10年前の初めての訪問時には、部屋に花や 植物もない天井を見ての生活でした。長く病気と向き合う中、夫や兄弟、友人などの支えで部屋では音楽を聞き温室と思えるほどの植物に囲まれて、ヘルパーへ の対応もポジティブになりました。今年の桜を眺めながら思うのは、訪問看護師として、あの時夢を叶えるお手伝いができた喜びです。
 桜の中でご主人とにこにこ笑う恵子さんが目に浮かぶようです。恵子さんの頑張りと踏ん張りは決して忘れません。
 (上高田訪問看護ステーション・2013年5月号掲載)