東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

自宅以外の居心地よい場所探し

 80代男性Aさん。既往歴、2型糖尿病・慢性腎不全・高血圧・肺癌疑い・変形性腰椎症。
 Aさんは10年近く当診療所糖尿病外来に通う患者さん。元高校教師で博学多識、お話好きで受診時にいろいろなお話をして下さいました。
 3年前に妻を亡くし、現在は次男と2人暮らし。毎月の外来には何とかタクシーで通院できていたものの、2019年に蜂窩織炎で入院後、ADL・意欲の低下が進み、血糖測定・インスリン注射も自己実施できず、衣服や容姿の乱れが目立つようになってきました。次男に血糖測定の依頼をしましたが、仕事等の理由で協力は得られませんでした。
 血糖値が悪化し、何度も転倒。生活環境が気になり訪問診療を勧めましたが、「診療所スタッフに会いたいし、気分転換の外出もしたいから外来通院がしたいんだ!」と拒否。しかし、コロナ禍でいよいよ通院が困難となり、次男の説得により訪問診療へと移行。
 次男との交換ノートを作り、医師や看護師との家族交流が始まりました。第一に血糖測定の重要性を説明。次男に来所を促し手技を説明しましたが、「説明書を見ますから大丈夫です」と早々に帰宅。しかし、コロナ禍で次男の在宅勤務が増え、気持ちに余裕ができたのか、血糖測定の指導に積極的になり、自ら来所し看護師の指で測定練習をするまでになっていきました。
 正確な血糖値を把握し、適切なインスリンを実施・評価できたことでHbA1cの値は徐じょに改善、外来では成し得なかったインスリン減量にまでたどりつくことができました。コロナ禍がきっかけで訪問診療に移行し、家族を巻き込んだ指導・援助が良い治療効果に繋がることを実感できた事例でした。
 外来通院を「唯一の外出・他人との触れ合い・社会との関わり」と大切にしている高齢者がいます。訪問診療導入により医療的なフォローはできたとしても、患者の抱く「社会から断絶される不安や寂しさ」にも耳を傾けなくてはなりません。デイサービスなどの提案をし、自宅以外での居心地のよい場所を共に探していくことも診療所としての役割ではないかと感じています。
 (新松戸診療所・2020年12月号掲載)