東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

認知症でもその時の思いに寄り添って

 日本は超高齢社会に突入し、老老介護で生活を送っている世帯が増えています。Aさんは夫と二人暮らしで、往診を受けながら在宅生活を送っていました。Aさんも夫も認知症があり、包括支援センターや市の高齢福祉関係の職員がサービスを勧めても、拒否し介入できずにいました。夫婦二人暮らしが限界となったある日、Aさんが転倒、寝たきりとなり、往診した時は4日間が経過していました。高度脱水と褥瘡形成で急性期病院へ入院となり、長期的な褥瘡治療のため、当院へ転院となりました。
 転院日、付き添いの夫は「家に連れて帰る」と入院を拒否し、看護師や市の職員が繰り返し説得し、やっと入院することができました。当院はコロナ禍の影響で面会禁止でしたが、ご主人は度たび面会に来てしまい、やむを得ず1階受付で面会としました。しかし、面会したことを忘れてしまい1日2回来院したり、自転車で道に迷い転倒し、救急車で運ばれたこともありました。
 「どうしても連れて帰る」と病院に1時間以上滞在し、病院職員、市の職員が夫と話をして、一緒に帰宅することもありました。Aさんは「なんで帰れないんだ」と責められるため、面会後「お父さんに怒られる」と不穏になることもありました。病棟職員は、Aさんの精神的安定をはかるため、作業やリハビリ時間を調整するなど工夫をしました。
 褥瘡が軽快してきた頃、夫は一人での生活が困難となり、面会に来ることもできなくなりました。今後の方向性を決めるため、市の職員と病棟職員が同席し、Aさんの意思確認を行いました。Aさんは入院生活に慣れたこともあり、施設入所を承諾されました。二人で支え合って生活し、自宅に帰ることを望んでいましたが、残念ながら叶えることができませんでした。しかし、夫が面会しやすい自宅から近い施設を探して、入所することができました。
 今回職員は、たとえ面会したことを忘れてしまっても、二人が面会する時間を大切にしようと対応してきました。これからも認知症であっても、患者と家族のその時その時の思いに寄り添った看護をしていきたいと思います。
 (あきしま相互病院・2021年2月号掲載)