東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

利用者の気持に寄り添える看護を

 コロナ禍により入院してしまうと家族と面会もできず、残された時間を自宅で過ごしたいと退院をしてくる方が増えています。Aさん(72歳・男性)もその一人です。
 昨年夏より下痢が続き、噴門癌・転移性肝癌で入院となりました。医師より「手術で治すことはできず、残り時間もあまりない。抗癌剤治療は、現在の身体状況では負担が大きすぎるためお勧めできない。身体が動けるうちにやっておきたいことをして下さい」と伝えられたAさんは「ショックで思いつかないけど、いろいろ考えなければならないことは分かった。仕事のことや親戚に連絡などしたい」と話されました。
 入院の前日までしていた仕事のことをかなり気にされ、子どももなく一人残される妻のことも心配され、親戚への連絡など身辺整理のため、介護保険を申請して、早ばやと退院してきました。
 私たち在宅チームは「Aさんの残された時間を本人の悔いが残らないよう支援しよう」と決めました。退院当日訪問すると、気力で元気を装っていたのかもしれませんが、思った以上に元気で、自分で兄弟や親戚にも連絡をとり、会いに来てくれる人も多いようでした。
 連日訪問し、本人や妻に寄り添うなかで、妻・兄弟より言いにくそうにセカンドオピニオンの相談がありました。本人の意向も強く、少しでも本人が希望を持てるなら、と病院MSWに相談。主治医も診療情報提供書を直ぐに作成してくれ、受診日まで命があることすら難しい状態でしたが、2週間先で予約を取ってくれました。
 また、本人から自宅より離れた駐車場にある仕事の車の整理をしたいと申し出があり、往診医に外出許可をもらい、車椅子を手配。看護師と共に片付けをして必要書類を持ち帰り、自宅で事務整理を行いました。その翌日、腹満感強く食事ができなくなり、リンデロンの点滴を開始。少し楽になりましたが、次第に嘔気も強くなり、2日後入院され入院翌日に永眠されました。
 短い関わりでしたが、Aさんの気がかりだった残された妻のことを親類にお願いすることや仕事の整理などを支援することができました。
 これからも、その人がその人らしい生活を送れるように多くの人と協力し、利用者の気持ちに寄り添える看護を行っていきたいと思います。
 (けいひん訪問看護ステーション・2021年3月号掲載)