東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

本人の意思に寄り添うケアとは

 A氏は抗がん剤治療を継続することが生きる糧となっていたようですが、体力面で継続が難しいと説明され、予後については言及されていませんでした。そのため、早く元気になって抗がん剤を開始して仕事をしたいという望みを持っていました。トイレまで伝い歩きで何とかいける状況でしたが、筋力が落ちては働けないからと、2階の浴室までご家族の協力を得ながら階段を上りシャワー浴をされていました。
 看護師として訪問入浴など体に負担がかからない方法や、ご家族の負担軽減のために看護師の入浴介助を提案していましたが、A氏は羞恥心からすべて拒否されていました。
 ご家族はA氏の生きる希望や意思を尊重し、2階の浴室まで連れて行って下さっていました。シャワー浴介助は、ご家族にとってA氏にしてあげられることの一つでもあり、衰弱し死が近づいていることを受け入れることにもなっていたようです。
 訪問中A氏は、婿がお風呂に入れてくれた話や娘が作ってくれた野菜スープだけは飲めるなど、いろいろな話をして下さいました。その姿を見て妻は、「こんなにも嬉しそうにまだ話ができる」と、A氏も妻も看護師が来るのを楽しみにしていると話して下さいました。
 最期に息を引き取るときは、看護師のお孫さんがそばにいて下さいました。エンゼルケアをお孫さんと一緒に行っていた時、「病棟では経験できない在宅での看取りができました。大変だとは思うが訪問看護師として働いていきたい」とうれしいお言葉を頂きました。
 ご本人の意思に寄り添うケアとは、負担の少ない方法を提案したり提供するだけではなく、見守ることも在宅ならではのケアだと思いました。最期に大好きなお孫さんに体を拭いてもらい、お孫さんが選んだスーツを着て旅立ったA氏は、訪問看護師として働いているお孫さんを誇らしげに見守って下さっているのではないでしょうか。
 (北園訪問看護ステーション・2021年5月号掲載)