東京民医連

輝け看護!

みんいれんTOKYO(機関紙)の「輝け看護!」コーナーから

認知症患者の家族を支える

 A氏宅を訪問すると、時どきインターホン越しに息子さんの怒鳴る声が響いてきます。ケア中もA氏が叱咤されることは多く、高圧的な物言いで叱咤されても、A氏は「全然気にしてない。なに言われたかも忘れちゃう」と気にする様子はみられません。
 A氏は98歳の認知症患者で、穏やかで笑顔が素敵な方ですが、疾患の性質上注意したことを何度も繰り返してしまうので、息子さんはいつもイライラされていました。「こんな状態だから会話することもあまりない、食事中も食べ終わるのをただ待っているだけ」と話されていました。
 息子さんは、A氏の食事の記録をとったり、痛いところがあればすぐに病院に連れて行ったりと、A氏に献身的に尽くされているので、このような関わり方は本意ではないのではないかと思いました。
 そこで、歌を歌ったり、風船バレーをしたり、談笑したり、A氏が楽しく過ごせるように意識して関わりました。
 A氏の楽しそうにしている姿を見れば、A氏のことを大切に思っている息子さんの緊張も解けると思ったからです。A氏の楽しそうな姿を見るうちに息子さんの笑顔も増えていき、レクレーションにも参加されるようになり、息子さんからA氏に優しく話しかける様子も見られるようになりました。
 最近、「A氏が寝てばかりで足腰が弱るのでは」と息子さんから相談があり、気分転換を兼ねて屋外歩行を提案しました。一歩外に出るとA氏はキラキラした目で辺りを見渡し、私の腕を引っ張り先へさきへと歩き出しました。「俺の時はすぐに車椅子に乗るのに。熊本さんだからだね」と、すぐ後ろから車椅子を引きながら息子さんはA氏の様子を嬉しそうに見つめていました。その日は最後まで息子さんも穏やかな表情で過ごされていました。
 これからも2人が笑顔で過ごせるようサポートしていきたいと思います。
 (訪問看護ステーション共立・2021年6月号掲載)