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4.病院実習のすすめ
〜大学の外で学ぶ病院実習の動機づけに、ぜひお読みください〜
『実習から何を学ぶのか?』
東京民医連・大泉生協病院 篠塚雅也(東京医科歯科大学・90年卒)
自分の前提となっている考え方に気づき、それを振り返る
モデルとしての医師をみる
患者や地域住民が医師に期待しているものを感じる
医学と医療の違いを知る、医療を学ぶ
チーム医療の中での医師の役割を知る
医師研修がどのように行なわれているかを知る
自己決定型学習の重要性に気づく奨学生制度の主旨
1.自分の前提となっている考え方に気づき、それを振り返る
それぞれの人は、周囲の人からの影響やこれまでの経験から多数の「前提」を持っています。「前提」は、日常生活を円滑に、すなわち全てのことを一から考えるのではなくするための工夫でもあり、学習に対してプラスに働くこともありますが、偏見や先入観のようにマイナスに働くこともあります。普段の生活では、「前提」を意識することはありませんが、医師になる過程で、これまでの「前提」を振り返り、場合によってはその「前提」を修正する必要があります。
「前提」は、哲学や世界観、信念や価値観、経験則や文化、方法や規範、予測や期待、など様々なものを含みます。いろいろな人との出会いと様々な経験は、自分の「前提」に気づき、それを振り返るのに役立ちます。
できれば、同じゴールに向かって努力するといった中でのぶつかり合いが、「前提」に気づくためには有用ですが、自分で意識して行動するだけでも、自分の前提となっている考え方に気づくことができるでしょう。旅行やアルバイトと同じような効果が実習にもあるでしょう。
あなたは、次の○○の中にどのような言葉をいれるでしょうか。「医師は、○○をしなければならない」「医師になるのは、○○だ」「医師と看護師の最大の違いは○○だ」「患者は○○なものだ」「よい医師は、○○の能力が高い」「医師に最も必要な資質は○○だ」
実習は、このようなことについての自分の前提に気づくいい機会かもしれません。
【参考】
『
成人教育における経験の役割
』
『
成人教育の目的と教育者の役割
』
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2.モデルとしての医師をみる
医学生のみなさんは、「こんな医師になりたい」という医師にどれくらい出会ったことがありますか。小さい時に自分を診察してくれた医師、親や親戚の医師、映画や小説の中に登場する医師、高学年の医学生なら、教科書を書いた医師、学内実習で出会った医師、なども含まれるかもしれません。そういった医師があなたの「医師像」を決めているのではないでしょうか。
医学部での勉強のモチベーションを保ち続け、また、学習の目標を明確にするためには、しっかりした医師像を持つことが重要です。医師と一口にいっても、基礎医学の研究者、大学病院や高度専門医療機関の専門医、発展途上国や僻地に従事する医師、第一線の医療機関で働く勤務医、また自宅を医院にしている開業医など様々である。それぞれの分野で一流と呼ばれる人が存在します。ある分野で一流であるということが、他の分野でも一流であることを単純には意味しません。学習の中でモデルの持つ重要性は、意外と意識されていません。自分がなりたいものになる学習のためには、モデルを見つけることが効率的です。
「家庭医」や「総合診療医」「プライマリケア医」という言葉を聞いたことがありますか。本で読んだだけでは、これらの医師がどのような価値観を持って仕事をし、どのような知識や能力を持っているのかはわからないでしょう。もし、あなたが将来、このような医師になりたいと考えているのなら、医学部の早い時期に実習に出て、モデルとなるような医師に出会うことが必要であると考えます。
【参考】
『
モデリング
』
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3.患者や地域住民が医師に期待しているものを感じる
次に大切なのは、医師の仕事の目的をはっきりとつかむことです。欧米では、医師は牧師、弁護士と並んで聖職とされています。聖職とは、高い専門性が必要であることはもちろんですが、弱い立場の人間を救うことが含まれています。聖職者の仕事の目的は、そういう意味で「使命(mission)」であると言われます。すなわち、医師には、病いに苦しむ人を救うという使命があるのです。ここで「病い(illness)」と言いましたが、「病い」は「疾病(disease)」とはイコールではありません。病いは、その人の人生の物語と密接につながっています。
Narrative-based Medicine
という言葉を聞いたことがあるでしょうか。医療の中では、科学的根拠(Evidence)だけでなく、患者の物語もとても大切です。
地域で求められているのは、「患者の痛みのわかる医師」であり、「患者とともに笑い、泣き、怒る医師」なのです。このような期待を知るためには、実際に患者や地域住民と話しをすることが大切です。
【参考】
『
Narrative-based Medicine
』
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4.医学と医療の違いを知る、医療を学ぶ
医学が進歩すれば、医療もそれにつれて進歩すると思いますか。全世界を見渡せば、医学の進歩の恩恵を受けられる人は、ごくわずかで医学の進歩とは無縁のところで数多くの人命が失われていることに気づきます。「医療は医学の社会的適応である」という言葉が、誤りであったことが明らかになっています。
プライマリヘルスケアという言葉を聞いたことがあるでしょうか。健康な国づくり、まちづくり、村づくりのためには、政治や教育が重要であるというのは、世界的な認識になってきています。最先端の医療に莫大な医療費が注ぎ込まれる一方で、予防接種や健康教育、安全な飲み水の確保に使われる医療費はわずかです。
日本の状況はどうでしょうか。実習に出ると「高齢化社会」「失業・不況」などが医療現場にどのような影響を及ぼしているかについてのリアルな状況を実感することもできます。大学では、「医学」は学んでも、「医療」を学ぶ機会は少ないです。「医療」を学ぶためには、地域の第一線医療機関の実習が最適です。
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5.チーム医療の中での医師の役割を知る
「チーム医療」は、言葉としてはすっかり定着した感があります。では、実際の医療現場の中で「チーム医療」がどのように機能しているかを知っていますか。それよりも先に、病院の中には、どれだけの専門職がいて、それぞれどのような仕事をしているか知っているでしょうか。
医療のチームは、よくオーケストラに喩えられますが、実際はサッカーのチームの方が似ています。オーケストラでは、バイオリン奏者がピアノを弾くことはありえないでしょうが、サッカーでは状況によってデフェンスの選手が攻撃に参加することもあるからです。確かに医師には医師の、看護師には看護師の、薬剤師には薬剤師の、専門分野があります。しかし、仕事は全て患者のために行なわれ、患者を中心に役割分担がされます。そのため、「チーム医療」がどのように機能しているかを知るためには、一人の患者を中心に実習することをお勧めします。そうすることによって、一人の患者の医療にどれだけの人が関わっているか、またそれをうまく機能させる上での、診療録や指示簿、カンファレンスの役割などが見えてくるでしょう。
さらに、実際に患者に接する仕事だけでなく、調理師や事務の仕事の重要さも患者を通して理解すれば、さらに理解が深まるでしょう。
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6.医師研修がどのように行なわれているかを知る
医師にはどのような能力が必要なのでしょうか。そしてそれは、どのような方法で身につくのでしょうか。体育会系のトレーニングのようなものでしょうか。それとも古典芸能の伝承のようなものでしょうか。問題解決能力が大切であるとか、生涯学習につながる自己学習能力が必要であるとか言われますが、それはどのようにしたら身につくのでしょうか。
卒後の医師研修は、本来は卒前教育と同じ目標に向かって、方法も同じような方法が用いられるのが望ましいと言われています。しかし、卒前教育は改革が進んできたとはいえ、まだまだチュートリアルやPBL、クリニカルクラークシップが全ての大学・医学部で導入されているわけではありません。
そこで、卒後の医師研修がどのように行なわれているかを知ることによって、自分の卒前教育への取り組み方を見直すことが必要です。それには、過去問を入手して、試験対策により試験に通過するだけでなく、将来の医師研修に役立つ勉強の仕方はどのようなものかを考えることです。そのことによって、BSLをもっと積極的に取り組んだり、医師になった時のことを想定した教科書や文献検索の仕方を学生のうちにトレーニングすることもできるようになります。
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7.自己決定型学習の重要性に気づく
医師の研修が生涯にわたるものであることを否定する人は少ないでしょう。日進月歩の医学の進歩は、過去の知識を短時間で陳腐化させ、医学知識の量の膨大さは問題解決型学習をますます求めています。
そこで「良い医師」になるためには、自分で自分を教育できる力が必要です。成人教育理論(Adult learning theory)では、その力のことを「自己決定型学習(self-directed learning)と呼んでいます。
しかし、自己決定型学習こそが成人教育の本質的要素であるとはいっても、この能力は最初から全ての学習者に備わっているものではありません。詰め込み型の教育に馴らされ、「教師が教えてくれる」のを<期待>している学習者にとっては、自己決定型学習は戸惑いを呼び起こします。
学習者は、職業生活や私生活では、たしかに完全に独立した自己決定的な存在かもしれません。また、興味をもったことや趣味については嬉々として自己決定的な方法で学習を始めるかもしれません。しかし、それ以外のことについては、教育者に対して、自分より豊富にもっているはずの知識を、できるだけ楽な方法で授けてくれるよう期待しています。このような期待が裏切られると学習者は混乱し、とまどい、腹を立て、学習者としての自分の権利が無視されたと感じます。
では、どのようにして人は自己決定的な学習者になるのでしょうか。自己決定型学習は、個人学習と同じものではありません。自己決定型学習は他者とかかわり合うプロセスであり、その他者の一人が教育者なのです。そこでの教育者の役割は、自己決定型学習を活発にし、促すことになります。
【参考】
『自己決定学習』
自己決定型学習の8つの要素
(ノールズ「おとなの学習者―忘れられた存在」
自己決定型学習に関するいくつかの前提
(クラントン 「おとなの学びを拓く」)
『
アンドゴラジー「おとなの学習を援助する技術と科学」
』
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